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最高裁判所第一小法廷 昭和49年(オ)175号 判決 1975年10月09日

主文

原判決中上告人に金員支払を命じた部分を破棄する。

右部分につき本件を大阪高等裁判所に差し戻す。

理由

上告代理人柏木薫、同川津裕司、同清塚勝久、輔佐人牧順四郎、同牧哲郎、同小橋信淳の上告理由第一点について

原審は、本件実用新案は、耕耘機に連結するトレラーの駆動装置であつて、一審判決添付別紙(一)の図面において、次の三要件、すなわち、(甲)耕耘機Aのミッションの一部より動力を取り出し、耕耘機架台3の後方に延長伝動するようにし、(乙)一方、トレラーB側は、リヤーシャフトより架台8の前方ヒッチ金具12付近に至る動力伝動装置を設け、(丙)その双方の動力結合点17を耕耘機AとトレラーBとを結合する結合ピン13の軸心線上C-Cに設ける、との要件からなつているとしたうえ、

(一)  右要件(丙)にいう「耕耘機AとトレラーBを結合する結合ピン13」の耕耘機は、イ号物件(一審判決添付別紙(二)参照)においては、架台3の後方のギヤボックス11、垂直軸筒11′、支持腕11″に至るまでの機体であり、同じくトレラーは架台8の前方のギヤボックス12、横軸筒20に至るまでの機体であつて、この耕耘機部分とトレラー部分が旋回自在な垂直伝動軸17A、旋回支体13によつて結合されているのであり、この両者が本件実用新案における結合ピン13に該当する、

(二)  イ号物件にあつては、要件(甲)にいう「耕耘機Aのミッションの一部より動力を取出して、架台3の後方に延長伝動する」に該当する部分は、プーリー24、ベルト16、プーリー14、横軸27、ベベルギア17Bであり、要件(乙)にいう「トレラーB側はリヤーシャフトより架台8の前方のヒッチ金具12付近に至る伝動装置を設ける」に該当する部分はベベルギヤ17C′、プロペラシャフトの前軸21、プロペラシャフト15、リヤシャフト25である、

(三)  そして、イ号物件にあつては、(二)のようにして二分された動力はベベルギヤ17B′垂直伝動軸17A、ベベルギヤ17Cによつて結合され、その結合点がベベルギヤ17B′、17Cを有する垂直伝動軸17Aの軸心線C-Cにある、すなわち、イ号物件にあつては、垂直伝動軸17Aは旋回支体13とあいまつて、機体を結合する結合ピン13の作用をすると同時に、前者の動力を後者へ伝動する動力伝動の作用を営む、したがつて、この結合ピン13の作用をする垂直伝動軸17A、旋回支体13の軸心線C-Cは、動力を伝動する垂直伝動軸17Aの軸心であり、そのC-Cにおいて動力が結合している、

とし、イ号考案の中には本件実用新案の前記(甲)、(乙)、(丙)の構成要件がすべて包含されているとみることができるから、考案は同一であるということができる、としたものである。

しかし、一審判決添付別紙(二)およびイ号図面説明書に照らすと、イ号物件は、耕耘機能を備えた前方部分と積載運搬機能を備えた後方部分とが着脱ピン19によつて結合分離されることが明らかであつて、分離された状態でこれをみると、その前方部分が耕耘機と呼称されるものであることが明らかであり、架台3の後方のギヤボックス11、垂直軸筒11′、支持腕11″に至るまでの機体は後方部分と物理的に一体をなしていて、もとより耕耘機能とは関わりのない部分であるから、右ギヤボックス11、垂直軸筒11′、支持腕11″に至るまでの機体をもなお耕耘機と指称することは、特別の理由がないかぎり是認することができない。むしろ、右ギヤボックス11、垂直軸筒11′、支持腕11″に至る機体は積載運搬機能を備えた後方部分とともこれらをトレラー部分と呼称することに妨げはなく、「結合ピン」とは物体と物体とを結合する棒状のものをいうことが明らかであるから、特別の理由がないかぎり、本件実用新案において耕耘機AとトレラーBとを結合する「結合ピン13」というのは、イ号物件においては着脱ピン19にあたるというべきである。

しかるに、原審は、なんら特別の理由を開示することなく、また、原判決挙示の証拠に照らしても右特別の理由が明らかでないのに、前記のごとく、イ号物件においては、架台3の後方のギヤボックス11、垂直軸筒11′、支持腕11″に至るまでの機体を耕耘機とし、一方、架台8の前方のギヤボックス12、横軸筒20に至るまでの機体をトレラーとし、これを前提として垂直伝動軸17A、旋回支体13が「結合ピン13」にあたるとしたことは、経験則に違反するか、又は、理由不備の違法があるものといわなければならず、これが原判決の結論に影響を与えることが明らかである。したがつて、前記上告代理人柏木薫らの上告理由第一点中その余の部分および上告代理人補永守の上告理由について判断を示すまでもなく論旨は理由があつて原判決中、上告人に金員支払を命じた部分は破棄を免れず、この部分についてはなお審理を遂げる必要があるから、これを原審に差し戻すのが相当である。

よつて、民訴法四〇七条一項に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 岸 盛一 裁判官 下田武三 裁判官 岸上康夫 裁判官 団藤重光)

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